妄想は永遠の正義

ドラマやアニメの感想記事をメインに、雑多なことを書き綴っています。

自作小説「越前の落し物」

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みなさん、こんにちは。
「妄想は永遠の正義」のオーナー
御園そら(@sky_high1466)です。

 

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享保2(1717)年。

大岡忠相は普請奉行から江戸南町奉行に就任した。

 

時の将軍は徳川吉宗である。

数々の改革を推し進め、英明な君主として名高かった。

 

忠相は吉宗の右腕として小石川養生所の設置や、

飢饉対策のための、サツマイモの栽培などを奨励した。

 

その一方で幕府が認めない私娼を禁止し、心中や賭博も厳しく取り締まっている。

 

そんな冬の夜-

 

「まったくのう。城に篭って政務ばかりしていては、肩が凝るわい」

 

将軍・吉宗は密かに江戸城を抜け出し、人通りの少ない町中を歩いていた。

 本来ならば伴の侍をつけねばならないのだが、内々のお忍びのため一人であった。

 

「うーむ・・・腹が減ったな」

 

吉宗は川沿いの曲がり角に、一軒のひなびた蕎麦屋を見つけた。

空腹だったので何も考えずに暖簾をくぐった。

 

「おや、お侍さん。こんな時間に珍しいですな」

 

店主の嘉兵衛の話では、亥の刻(午後9時から11時の間)らしい。

 

この時代の習慣では日暮れと同時に就寝する者も多かったから、

深夜に来客があったのが珍しいのだろう。

 

「ああ、ちと空腹でな。その方、予に何か作ってはくれぬか?」

「はあ?・・・失礼ですが、あなた様は・・・」

 

「予」という一人称を聞いて嘉兵衛は怪訝な表情をした。

普通の身分の侍ならば、「わし」や「拙者」と名乗るものである。

 

「なに、怪しい者ではない。早う、何か食わせてくれ」

「・・・では、少々お待ちくださいませ」

 

しばらくして、嘉兵衛は一杯のかけぞばを吉宗に出した。

 

「では、馳走になるぞ」

 

吉宗は箸を取って、かけそばを食べはじめる。

 

「・・・おお、これはうまいのう!」

「お偉い身分のお侍さんに褒めていただくとは、わしも商売の甲斐がありますな」

「うむ、下々の者が真面目に働いてくれるから、予の治世も安定するのじゃ」

「あの、ちっとばっかし気になるんですが・・・」

「ん?どうした?」

「あなた様は、いったい、どちらの藩のお殿様なんでしょう?」

「予か・・・予はな・・・・・・」

 

言いかけた言葉を、吉宗は汁と一緒に飲み込んだ。

自分が時の将軍だと知ったら、目の前の男は驚いてしまうに違いない。

 

「まあ、そのようなことは、どうでも良いではないか」

「・・・・・・」

「なに、吉原の花魁遊びに飽きて、ここに寄ったまでのこと」

 

吉宗は適当に誤魔化しながら笑う。

だが、嘉兵衛は納得していないようだった。

 

「主、今宵はたいへんに世話になった。

これは蕎麦の代金だ。受け取っておくが良い」

 

吉宗は懐の財布から、小判を十枚差し出した。

 

「ひ、ひえっ!お侍さん!こ、こんな大金、わしは受け取れねえ!」

 

その当時、小判を十枚盗んだら首が飛ぶと言われていた。

嘉兵衛が大金を恐ろしがるのも、無理からぬことだった。

 

「予の感謝の気持ちだ。この金を元手に店を大きくするのが良いであろう」

「・・・・・・・・・」

 

吉宗は半ば強引に代金を嘉兵衛に手渡すと、店を出て江戸城に向かった。

 

「予も良いことをしたものよ。

これで、嘉兵衛の店は、今より繁盛することであろう」

 

ところがその翌朝、事件が起こった。

嘉兵衛が困った顔をして番屋に駆け込んだのだ。

 

「なに?金が盗まれただと?」

 

目明かしの源次が苛立ちながら問う。

 

「は、はあ・・・実は盗まれたのは十両でして・・・」

「十両だと?馬鹿を言うな!」

「ひっ!」

 

嘉兵衛は源次の剣幕に小さくなった。

 

「お前の店は、そんなに稼いでるようには見えん!

つまらぬ嘘をつくと、どうなるかわかっておろうな?」

「い、いえ、滅相もございません!」

 

結局この事件は、町奉行の大岡の耳に入ることになった。

 

「なに?蕎麦屋の主の嘉兵衛が十両を盗まれたと?」

「はい、あの店にそんなに大金があるのは、いささか奇妙な気がするんですが・・・」

 

奉行所与力の和田が首を傾げる。

 

「ふむ、もう少し詳しく、事情を聞いてみる必要がありそうだな」

「嘉兵衛は、嘘偽りを申しているのでしょうか?」

「いや、そうではあるまい」

 

数日後、大岡は江戸城に登城した。

 

公式の用件で吉宗に謁見したが、機会を見計らって私的に話すことができた。

 

「上様、お忍びで城下に出られましたな?」

「なっ、何を言うか。忠相!予は、かようなことはしておらぬ!」

 

癇癪もちの吉宗はムキになったが、大岡はいたって冷静に続けた。

 

「天下人である将軍が伴もつけずに、市井をおひとりで歩かれるとは・・・

もし、万が一のことがあらば、

徳川家はおろか、この国が由々しき事態に巻き込まれますぞ」

 

「う、うむ。だがのう・・・予は市井の暮らしを見てみたかったのじゃ。

政事を大きく変えて行くには、庶民の様子を知る必要があろう?」

 

「お言葉は、もっともでございますが、

それは、われわれ家臣がすれば済むことです。

上様はこの国の光であらせられるのですぞ?

光は高き所から、降り注げば良いのでございます」

 

吉宗は嘆息した。

最も高い身分にいるが、どうにも、この寵臣にだけは敵わない。

 

「そちの内々の用件とは、あの嘉兵衛のことか」

 

「はい・・・上様は、一杯のかけそばの代金として、

嘉兵衛に十両を支払われたそうですね?」

 

「うむ。確かに予は十両の金を渡した。

嘉兵衛の店は、相当に困窮していたようだから、

その金で、少しでも楽になれば良いと思ったのじゃ」

 

「上様、物にはそれ相応の対価がございます。

それに見合わぬ金をもらっては、嘉兵衛も戸惑ったことでしょう」

 

吉宗は金を渡した時の嘉兵衛の表情を思い出した。

 

「忠相よ・・・予が間違っていたと申すのか?」

「はい、しかもその10両は、何者かに盗まれた由にございます」

 

「なに?それはまことか?!」

「金を盗んだ下手人は、南町奉行所で必ず捕らえます

・・・今後はくれぐれもお控え下さいませ」

 

「わかった。予も少々、短慮であったようだ。

忠相の言葉で、何やら目が覚めたぞ」

 

ほどなくして、嘉兵衛から十両を盗んだ下手人が捕まった。

 

「申し訳ございません。病気のおっかさんの薬の代金が払えず・・・

切羽詰ってあの蕎麦屋に忍びこんだ所、

十両もの大金があったので、つい魔が差しました・・・」

 

平太という若者が奉行所の白洲で神妙に頭を下げる。

 

「平太、よくぞ正直に申してくれた」

 

十両を盗めば死罪だ。

 

事情があるとはいえ、ご赦免になることはまずないだろう。

金を盗まれた嘉兵衛はそう思っていた。

 

「・・・だがな、平太よ。

この金はさる高名な侍が落としたものなのだ。そなたが盗んだものではない」

 

大岡の言葉を聞いて嘉兵衛は驚いた。

 

「ま、待ってくだされ、お奉行様!

この金は、あの偉いお侍さんが、蕎麦の代金としてわしにくれたもんです。

その十両を盗んだのは、この男です!打ち首が当然でございましょう?!」

 

金というのは人間の本性を暴くものである。

普段は温和で知られる嘉兵衛の言葉は、いつになく興奮していた。

 

「人の欲というのは、恐ろしいものだな」

 

大岡の穏やかだが、威圧感のある声に嘉兵衛と平太は萎縮した。

 

「店を繁盛させたいという欲。そして病気の母を治したいという欲。

どれも理屈ではない気持ちからくるものだ」

 

「それの・・・どこがいけないのでしょう?」

 

平太が小声で問う。

 

「人を傷つけて得た幸せは、砂上の楼閣に過ぎんということだ。

嘉兵衛から奪った金で、母の病は治るかも知れん。

だが、十両の金を盗んだ罪でそなたは死ぬ。それでは母が不幸になるであろう?」

 

平太は何も言えずに俯く。

 

「また、見知らぬ侍から貰った金で、

店を繁盛させたとしても、まるで意味のないことだ。

本当にどうにかしたいのなら、自分の知恵で努力せねばなるまい」

 

嘉兵衛は、自分の浅はかさが恥ずかしくなった。

 

「・・・双方ともようわかったな。

ここにある十両は、さる高名な侍であるこの越前が落としたもの。

よって、こたびの詮議は構いなしといたす」

 

その翌日。

大岡のこの裁きは江戸市中で大評判となった。

 

「どうだい!大岡様のこの名裁き!」

 

「うちのかわら版には、どこよりも詳しく書いてあるよ!

さあ、買った!買った!」

 

大声で叫ぶかわら版屋の周りに、老若男女が群がる。

 

「すごいね!大岡様は天下一の名奉行だよ!」

「本当だね!」

 

【松が枝の 直ぐなる心 保ちたし 柳の糸の なべて世の中】

 

-世の中の多くの人が、柳のように流されているが、

私は松のように、揺らぐことのない心を持って生きていたい-

 

大岡の信念を表す和歌である。

 

あとがき

 

いまから4年ほど前にフェイスブックに投稿した小説です。

 

昔よく見ていた「大岡越前」のドラマを参考に、

オリジナルのエピソードを書いてみました。

 

現代でも窃盗は重い罪ですが、死刑にはなりません。

江戸時代はいろいろと厳しかったんですね。

 

十両というのは、いまでいう100万円くらいです。

 

将軍にとってはたいした金額じゃなくても、

一般庶民にとっては生活を左右する金額です。

 

「はてなブログチャレンジ」の中級の課題に、

「小説を書く」という項目があったので、

今まで書いた中でいちばんまともそうなものを出してみました。

 

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つたない文章を最後までお読みいただき、
ありがとうございます。
では、また次の記事でお会いいたしましょう。